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尿失禁における理学療法

(UROLOGICAL REVIE Vol.5 No.2 より)

かとう内科並木通り診療所 泌尿器科
(元 岡山赤十字病院 泌尿器科 部長)
大橋輝久


 はじめに

尿失禁における理学療法は骨盤底筋群の弛緩による腹圧性尿失禁に対し、Kegelが運動療法として骨盤底筋群訓練を提唱したことが始まりとされている。

しかし欧米、本邦とも産褥体操として実施されているにすぎなかった。その後、腹圧性尿失禁が就労女性のQOLを著しく低下させることや、手術療法の進歩とともに再び見直されるようになった。西欧、中華民国、韓国では産婦人科医も加わったUrogynecologistが看護師、理学療法士らとチームを結成し、手術療法だけでなく、骨盤底筋群訓練も治療法の一環として広く取り上げられている。

一方、本邦では尿失禁に対し、泌尿器科医が中心として対応してきた。泌尿器科という患者にとって羞恥心が先にたつ専門分野であるが、マスメディアが積極的に取り上げるようになり、受診患者の増加とともに、看護師を中心として、骨盤底筋群訓練がなされるようになった。


 骨盤底筋群について

骨盤底筋群は尾骨より恥骨にわたる強力な肛門挙筋を中心とした筋肉群(骨盤隔膜)であり、その内側に膀胱靭帯、基靭帯、恥骨尿道靭帯などの靭帯を形成する筋膜、いわゆる内骨盤筋膜(endopelvic fascia)が存在する。また骨盤底筋群のやや外側に外尿道括約筋(球海綿体筋)、外肛門括約筋が存在すると考えてよい。


(クリックすると画像が大きくなります)
DVD「毎日スッキリ体操」より

この内、外尿道括約筋は持続的に緊張する目的を持った遅筋(slow-twich muscle)であり交感神経と協調して、持続的な尿禁制を受け持つが、急な動作時の尿禁制には不十分である。このため速筋(fast-twitch muscle)である骨盤底筋群が瞬時に尿道を圧迫することにより、急な動作時の尿禁制が保たれるといわれている。

また内骨盤筋膜はそれ自体の強度はないものの、骨盤底筋群と協力して、骨盤内臓器である膀胱、子宮、直腸などをハンモックのように支持している。出産時に一時軟化するものの約一ヶ月で回復し、腹圧による刺激に対し、その刺激を直ちに骨盤底筋群に伝達し、尿道圧迫を促すと考えられている。


 尿失禁の原因について

尿失禁の原因については多数の報告があり、ここでは簡単に触れることにする。

女性の尿失禁の代表である腹圧性尿失禁については骨盤底筋群の脆弱化による膀胱ないし膀胱頸部の過可動性による骨盤底筋群に対する腹圧刺激伝達の遅延を呈するタイプと内尿道括約筋機能不全(intrinsic sphincter deficiency, ISD)とにわけられる。前者については無理な出産、出産後1ヶ月以内、すなわち内骨盤筋膜が修復される期間における活動的な生活、さらには美容上の理由によるコルセット着用による骨盤内臓器の下方への圧排などが原因として挙げられている。一方、後者については骨盤内臓器手術、放射線療法による尿道周囲組織の硬化(drain pipe 尿道)、あるいは原因は明確にされていないが恥骨尿道靭帯の脆弱化、単純子宮摘除術などが挙げられる。

切迫性尿失禁を認める不安定膀胱に関して、脳の老化、膀胱頸部の過可動性により、膀胱と尿道の位置関係にずれが生じ、蓄尿中に排尿筋の過反射が認められるといわれている。ただ2002年、国際尿禁制学会が過活動膀胱と不安定膀胱を統合して過活動膀胱と呼び、さらに切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁の症状を有する症例を混合型尿失禁(mixed urinary incontinence)と呼ぶことなどを提唱している。ただ切迫性尿失禁という症状のみで判断すると真性腹圧性尿失禁でも尿失禁を防御するため頻尿傾向になり、ひいては切迫性尿失禁をきたすことがあり注意を要する。また女性尿失禁の約30%に認められる混合型についても、症状のみで判断している場合が多く、近藤は西欧に比較して、本邦では4%と少ないと述べている。

著者も腹圧性尿失禁および切迫性尿失禁を訴える67例に対し鎖膀胱尿道造影および尿流動態検査を施行したところ真性腹圧性尿失禁(Blaivas分類)TypeTが27例、TypeU 6例、TypeV(ISD)18例、不安定膀胱10例、混合型6例と全体の9%程度であった。この6例中3例は抗コリン剤投与で尿失禁は消失した。

このことより実際に尿流動態検査をしてみると、両症状を訴える患者の場合、真性腹圧性尿失禁が多く、尿流動態検査で不随意な排尿筋収縮を認める症例では不安定膀胱が主体の場合が多く、抗コリン剤投与で改善することが判明した。以上のことから、混合型の場合は抗コリン剤の投与をfirst choiceとしてよいが、効果の認められない場合は早期に中止して、真性腹圧性尿失禁の治療、特に理学療法をするのが望ましいと考える。


 腹圧性尿失禁に対する理学療法

骨盤底筋群訓練は真性腹圧性尿失禁の基本的治療として確立された感があるが、問題点としては骨盤底筋群の認識および持続する情熱が挙げられる。前者については骨盤底筋群のもっとも外側に位置する球海綿体筋(膣括約筋)を認識して、骨盤隔膜を締めることが重要である。この球海綿体筋を視覚、聴覚、触覚で自覚させる目的でバイオフィードバック療法を利用するのが現在の主流となっている。使用される器具としては筋電図計、ペリネオメーター、膣内コーンなどが一般的である。

最近の興味ある文献について述べてみたい。Pagesらは骨盤底筋群訓練とバイオフィードバック療法との無作為抽出試験を実施した結果を報告している。40例の軽度〜中等度尿失禁を有する婦人に対し4週間の病院での訓練の後、2ヶ月間自宅での訓練をした成績で、骨盤底筋群訓練は尿失禁消失28%、改善68%に対し、バイオフィードバック療法は消失62%、改善38%と述べ、バイオフィードバック療法は有用かつ骨盤底筋群の強い収縮圧を得ることができると報告している。また小型の装置と8分間の教育用ビデオを用いた家庭用システムで、44例中35例(79.5%)に尿失禁の消失あるいは改善を認めた報告もある。しかし前者の報告は4週間の専門家による指導および Gemini 2000 TM biofeedback 装置という高価な器具を使用して初めて可能になるものであり、さらに後者も医療機関の受診の必要性があり、福井も指摘しているごとく、煩雑で時間もかかるこの種の理学療法に対し、本邦ではまったく経済的援助がないことより、発展は今後も望めないのが現状である。

一方、電気刺激(functional electrostimulation, FES)と骨盤底筋群訓練の有用性については、Dumoulimらが症例は8例と少ないが、肛門と恥骨上部に貼る表面電極を用い、10〜50Hzの刺激を併用することにより、5例が1年後も尿禁制を維持できていたと報告している。しかし腹圧性尿失禁に対するFESの有用性についてはBøが西欧で実施された無作為抽出試験9報告を検討し、切迫性尿失禁と異なり、3報告の内、有用と認めるのは1報告のみであったと述べている。最近、Sungらにより60例を対象とした骨盤底筋群訓練とFES――バイオフィードバック療法の無作為抽出試験が行われ、ぺリネオメーターによる骨盤底筋の最大収縮圧および尿失禁の改善に関し、後者が有意に有用であったと報告している。さらに本邦でも小型携帯用刺激装置によるFES、磁気刺激(functional magnetig stimuration, FMS)の有用性も報告されている。

薬物療法として内骨盤筋膜の繊維成分を増加させると考えられているエストロゲンがよく用いられるが、このエストロゲンと骨盤底筋群訓練併用および訓練単独との無作為抽出試験がIsikoらにより報告されている。2年間治療が継続できた66例における検討で、2年後には両群とも改善率に有意差は認められないものの、中等度尿失禁は12ヶ月で、軽度尿失禁は18ヶ月で併用群の方が早期に改善したと報告し、併用の有用性について述べている。

最後に前立腺全摘後の尿失禁に対する術前のバイオフィードバック療法の有用性について、Balesらは無作為抽出試験を実施した100例において、術前、術後にバイオフィードバックを利用した骨盤底筋群訓練を指導した群と簡単な骨盤底筋群訓練のみを指導した対照群との間に有意の差が認められなかったと述べている。このことは骨盤底筋群訓練だけでも十分な効果が得られることを示唆するものである。


 腹圧性尿失禁に対するおなかスッキリ体操

前述したごとく、様々な理学療法が開発、検討されているが、これはすべて医療機関を受診および通院の必要性があるという短所をもっている。著者はBøが来日し、骨盤底筋群訓練のexerciseの強さに、日本女性が耐えられるのかどうか疑問をもち、日本人向けの骨盤底筋群訓練、それも医療機関受診前に家庭で実施できるものをとの目的で作成されたのが「おなかスッキリ体操」である。これは著者が参加している岡山コンチネンス研究会の会員の一人であるスポーツプログラマーである古川が中心となって作成された。その成績についてはすでに報告しているが、一般女性73例の改善率71.2%、著者の勤務する病院に受診した42例の改善率78.6%であり、高齢者と若年者との比較で差は認められなかった。この体操は大腿四頭筋内転筋を利用して骨盤底筋群を認識する方法であるが、さらにNHKの協力により、骨盤底筋群が認識しやすかったかかと、足およびおしりをあげる動作を中心に高齢者にも向くようにテンポを少し緩徐にしたビデオ「おなかスッキリ体操 骨盤底筋群筋力アップのために NHKすこやかシルバー介護より」を作成した。

図1.骨盤底筋が締まる動作(一般女性)

このビデオの効果に関してであるが、2001年より2002年5月までにビデオを購入した一般女性の内、追跡調査できた20例(年齢39〜87歳、平均59.7歳、軽度尿失禁:12例、中等度:8例)で尿失禁消失:6例、50%以上改善:10例と改善率は80.0%であった。この内、軽度尿失禁例は消失4例を含む83.3%に改善を、また中等度尿失禁は消失2例を含む75.0%に改善を認めた。また実施状況についてはビデオを見て実施しているのは3例であり、残り17例はビデオを参考にした後、自分に合った動作を日常生活に取り入れている。

以上より、異論はあると思うが、現在の日本の状況では医療機関受診前の一般女性の啓発および理学療法としてこのビデオは有用ではないかと考える。


 切迫性尿失禁に対する理学療法

切迫性尿失禁に対する理学療法としてバイオフィードバック療法あるいは骨盤底筋群訓練との併用療法はある程度の効果は認められるものの限界があるのが現状である。やはり抗コリン剤を中心とする薬物療法が主体となるが、副作用などを考慮すると5〜20Hzといった低周波による電気刺激(FES)あるいは磁気刺激(FMS)の有用性が報告されており、今後は在宅で簡単に使用可能かつ安全性の高い装置の開発が望まれる。


 おわりに

尿失禁に対する理学療法について最近の報告を中心に述べてきたが、尿失禁の検査でも24時間パッドテストおよび排尿日誌が患者が耐えられる負担の少ない有用な検査であるとの報告をみると非侵襲的なものが重要視される昨今、骨盤底筋群訓練が腹圧性尿失禁患者のQOLに有用と再認識されたり、さらに男性の終末尿滴下(尿の切れが悪いため、下着を濡らす)に対しても有用との報告をみると、今後も種々の認識法の工夫によりさらに理学療法の中心になるものと推察する。しかし人種により体格、筋力、生活習慣に差があるため、理学療法は手術療法、薬物療法のように方法の国際統一化は難しい感があり、日本独自の理学療法の進歩があってもよいのではないかと思う。


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